現代の韓国は飽食ですが、一方で北朝鮮では食糧難の問題を抱えています。韓国語には「ポリコゲ(보릿고개)」という言葉があります。

現代の韓国でこのような言葉が出てくることはなくなりましたが、春の食料難を象徴する言葉となっています。

韓国では食糧難の時代に人々がどんなものを食べて飢えをしのいでいたか、それを体験できる施設が慶尚北道・亀尾市にある「ポリコゲ体験場」です。人々が飢えていた時代の食を疑似的に体験してきました。

ポリコゲ(ボリコゲ)とはなにか

ポリコゲ(보릿고개)とは、直訳すると大麦(보리)+峠(고개)で「麦の峠」という意味です。前年に収穫した米などの穀物を食べ尽くし、夏に麦がとれるまでの山場の時期のことをいいます。漢字を使って「春窮」という言葉でも説明されます。

陰暦では4〜5月にあたり、春から初夏にかけて、になりますが、このころになると主食が不足してしまい、ひどい時には草や木の皮など山野で採れるもので飢えをしのいでいたそうです。

韓国ではこの言葉は過去のものになりましたが、厳しい食料事情におかれた北朝鮮ではこの言葉が表す状況がいまだに存在しているようです。

1950年代は厳しい食料事情、1960年代に改善

韓国でポリコゲが実際の状況としてあったのは1960年前半頃までだと言われており、朴正煕大統領が就任し、主食であるコメの生産力を増大させたことなどにより、1960年代後半には徐々に改善されていきました。参考:ポリコゲ(보릿고개)-韓国民俗文化大百科事典

1952年の慶尚北道のある地域では「ヨモギも食べることができず、体は避けるように腫れ、白い泥を草と一緒に食べている」という記録が残っているほどだそうです。参考:大韓民国歴史博物館ブログ

これは朝鮮戦争(1950~1953)の真っただ中だからということもあるでしょうが、ポリコゲの時期に人々は過酷な状況に置かれていたわけです。

ポリコゲ体験場は、朴正煕大統領の生家の前に位置

ここは朴正煕大統領(任期:1963~1979)の生家として保存されている家のすぐ隣に位置しています。まわりには朴正煕大統領が1970年初頭から推し進めた農村振興運動としての「セマウル運動」、それを記念したセマウル運動テーマ公園が造成されており、展示館もあります。


[朴正煕大統領の生家]

朴正煕大統領はポリコゲが存在する状況からの脱却を図ります。米国などから食料輸入をし、さらには品種改良や化学肥料を導入するなどして、米の生産量を向上させました。そのようにして次第に食料に困る人はいなくなったわけです。

セマウル運動テーマ公園とともにある「ポリコゲ体験場」は、朴正煕大統領の生家の前に設置されている施設でもあり、「ポリコゲ」といわれるほどの食料難からの脱却の成果、そして大統領として主導した経済発展を功績として知らせようという意図が感じられます。

ポリコゲ体験セットを注文してみた

このようなセットを注文することにより、当時のボリコゲを体験できます。マッコリも含めて食べ物は単品でも注文ができるのですが、ここではいちばん大きい11,000ウォンのセットを注文しました。

やかんに入ったマッコリ、豆腐にサツマイモ、落花生、黒みを帯びた固まりは見慣れないものですが「ボリゲトッ(보리개떡)」という麦の餅、そしてペットボトルに入っているのは甘酒(감주)で、これは麦のシッケです。そしてキムチが添えられています。

この「ボリゲトッ(보리개떡)」というのは、麦そのものではなく麦の殻で作った餅です。ケットッ(개떡)という言葉に質の悪い餅、という意味が含まれています。


[ボリゲトッ(보리개떡)]

ボリゲトッは弾力はあるものの粘りはなく、無味に近く、空腹を満たすためには良いといった印象を感じました。

朝鮮戦争の頃や直後には草や木の皮を食べているような、極端に厳しい状態だったのでしょうが、実際のところここまで食料が用意できれば、恵まれたほうだといえるはずです。(ここではひとりで食べたので余計にそう感じたかもしれません)

このように春先には米や麦の主食の代わりに豆腐やサツマイモ、落花生、そしておそらく夏にかけてはジャガイモやトウモロコシなどを食べて飢えをしのいでいたのでしょう。

飢えを解決するまでの時代の食を体験してみよう

ボリコゲという言葉に象徴されるように、60〜70年ほど前の韓国の人々は飢えに苦しんでいた時代があったのです。

いちどはこの地を訪れ、ポリコゲの時代、そしてセマウル運動以前の農村の暮らしや食料について知ることによって、食にあふれた現代のありがたみを実感できます。

またセマウル運動テーマ公園ではセマウル運動以前の農村の様子から改善された家や街並みの再現、そして展示館では朴正煕大統領の功績として、セマウル運動前後の歴史が伝えられています。

朴正煕大統領の故郷である慶尚北道・亀尾市を尋ねてみて、セマウル運動による韓国の発展の歴史を学んでみたり、「ポリコゲ体験館」にてポリコゲ時代の食を体験するというのも、食をテーマとする旅として貴重な体験ができるはずです。

▪セマウル運動テーマ公園
東大邱駅から亀尾駅までITX-セマウル号で約35分
亀尾駅から市内バスで35分、サンモロータリー下車徒歩3分